ギザの三大ピラミッドシリーズも第6回目を迎えました。
今日の記事は、お待ちかねのネコ師の独自理論を展開します(誰も待っていないか?)。
1.内部トンネル説への反論
フランス人建築家ジャン・ピエール・ウーダン氏の提唱する「ピラミッドは内部トンネルで建造された」とする説が注目を集めている。BSでも特集したらしい。
この説を始めて聞いた時、ウーダン氏の主張する意味が分からなかった。ネットで読んだだけなので。ところが、Youtubeにアップされている「ピラミッドはこうして造られた」を見て、考えが変わった。この説は、とても優れていると。
ウーダン氏は技術的な課題をきっちり説明しているが、その説をネットで紹介する人がその意味を理解していない。
ウーダン氏の仮説の優れている点は以下の通り。
(1) ピラミッドの外壁を造り、その内部に石材の運搬通路を造ることで、ピラミッド外周に造られる足場を最小限にすることができること
(2) ピラミッドの四つの角を石材の方向転換のためのオープンスペースとしていることで、作業員の入れ替えや通路内で発生する粉じんの問題を解決していること
(3) 重量軽減の間に使われる巨大な梁材の運搬方法、さらに、大回廊の使途を「釣り合い重り」の上昇下降施設として、始めて明確な証拠と共に示したこと
(4) キャップストーンの設置方法を示したこと
この仮説は、非常に説得力があり、ネコ師が口を挟む余地がありません。
しかし、それでは面白くないので、この仮説のあら探しをしてみましょう。
2.大回廊の表面加工の必要性
大回廊は、とても緻密な石組みで組まれており、それは8メートルの高さのある天井部まで同じ造りです。壁面は磨き上げられ、とてもキレイです。もし、ウーダン氏の大回廊エレベータ仮説が正しいのなら、大回廊は仮設用の施設であり、天井までこれほどの石材加工を施す必要はありません。大回廊以外のピラミッド内の通路の出来が悪いことからも、大回廊全体の石材加工の精度の高さは特異です。
考えられることは、大回廊は、仮設としても使ったが、本来目的は別にあった、ということです。
これほどの施設を釣り合い重り用の仮設のためだけに造ったとは考えられません。
大回廊の傾斜角は26度34分です。釣り合い重りの仕掛けなら、51度50分の傾斜を持つピラミッドの外壁の低位部を使うことも可能です。その方が作業も仮設の撤去も容易です。
釣り合い重りの仕掛けをピラミッドの高い位置に造る必要は全くないのです。つまり、ウーダン氏の仮説では、なぜ、現在の大回廊の位置に釣り合い重りの仕掛けを造る必要があったのかが説明できないのです。
しかし、ウーダン氏の仮説は説得力があります。そうであるのなら、大回廊は、あの位置に造らなければならなかった別の理由があり、それを重量軽減の間の梁材の運搬にも使ったというのが本当の所ではないでしょうか。
では、本来の目的とは何だったのでしょう。あれほど精巧な表面加工を施した石材を天井まで施した大回廊は、何の目的で造られたのでしょう。
ここで、見方を変えてみましょう。
大回廊の緻密な石組みは、水も漏らさぬ造りです。そして、王の間も同じ造りです。しかし、それ以外の通路は、それほどの精度で造られていないようです(途中までしか行けなかったので全体は確認していませんが)。
この「水も漏らさぬ造り」を必要とした理由は、王の玄室と大回廊に液体を満たす必要があったからではないでしょうか。水密性を保つために、石材のすべての面をきれいに成型したのではないでしょうか。
大回廊から落とされたと思われる巨石により大回廊に至る上昇通路は確実に密閉されています。つまり、王の玄室と大回廊は一体構造の密閉されたひとつのシステムとして成り立っていたのではないでしょうか。そこに液体を注入するために、王の玄室には「空気孔」といわれる穴が外部に通じています。この穴は空気孔ではなく、液体を注入するためのパイプの役割を果たしていたのではないでしょうか。
3.重量軽減の間の秘密
ネコ師が以前から不思議だった構造物に重量軽減の間があります。その機能は、「巨大ピラミッドの重量が王の玄室にかかるのを軽減するための装置」と理解されており、それに対して誰も疑問を呈していません。しかし、ピラミッドの構造上、このような施設が本当に必要なのでしょうか。
もし、必要であるとするのなら、王の玄室よりもさらに下部にあり、ピラミッドの重量を支えるべき王妃の間の上にこそ造られるべき施設です。王妃の間の上部にこれと類似した施設があるとは聞いたことがありません。
つまり、重量軽減の間の目的は、別の所にあるのです。それは、リザーバータンクとしての役割です。水密性のある王の玄室と大回廊に注入された液体は、そのままではいつかはなくなります。それを常に補うためには、この上部にタンクを設けるのが常識でしょう。
4.王妃の間の役割
ここまで見てくると、王妃の間の役割が見えてきます。
王妃の間は、王の玄室と大回廊というシステムから漏れ出した液体を貯留する施設です。だから、王妃の間の内部を仕上げる必要がなかったのです。そして、王妃の間から伸びるシャフトは、この液体を再び「重量軽減の間」まで戻すための装置だったのです。その証拠に、王の玄室と王妃の間から伸びるそれぞれのシャフトの鉛直高さは同じです。液体を扱う場合に求められる条件です。
女王の間から伸びる2本のシャフトの出口は確認されていません。ドイツの調査隊によるロボット探査の結果、シャフトを登ったロボットは石の壁に進路を阻まれました。これは、液体を封じ込める弁の役割をしたものでしょう。
5.王の玄室と大回廊のシステムとは
では、王の玄室と大回廊という大ピラミッドのメインシステムは、どんな機能があったのでしょうか。
これは、全く分かりません。でも、いろいろな想像ができます。
1.満たされていたのは「水」だった
ピラミッドパワー水を求める信仰があった? そんなの聞いたことがない!
2.満たされていたのは「アルコール」だった
アルコールを貯めるのなら、壺でも十分。ピラミッドを造る必要もない。
3.満たされていたのは「塩水」だった
これは少しだけありそう。海は遠いし。でも、ピラミッドを造る理由にはならない。
4.満たされていたのは「血」だった
オカルトぽくって素敵だけど、そんなはずねーだろ!
5.満たされていたのは「オイル」だった
これはありそうです。高い位置に設置したリザーバータンクを使って、玄室のオイルを余圧し、ピラミッドの側方から火を吹き出して民衆を虜にした。でも、それも変。ピラミッドを造る時点で民衆は王に従っていて、今さらという感じ。
このオイル仮説は簡単には捨てがたい魅力があります。油圧ジャッキは、わずかな力で重量物を簡単に持ち上げることができます。もし、大回廊にオイルが満たされていたとしたら、大回廊上部から落とされた石の「栓」により、とてつもない重量を動かすことのできる「油圧」が発生したと考えられます。それは、どこに作用したのでしょうか。油圧を使うとしたら、それは小さな断面であると考えられます。ピラミッドから地下に延びる部分がそれに該当しそうです。
6.満たされていたのは「水銀」だった
これはちょっと魅力的な考え方。秦の始皇帝の地下墓地には水銀の川が流れていたと言われています。
では、なぜ、水銀なのか。
大ピラミッドには予言が刻まれているという説があるように、ピラミッドに使われている寸法は正確で、何らかの意味をなしているらしい。
もし、そうであるのなら、ピラミッドの建造目的ははっきりする。
水銀から金を生み出す錬金術とは無関係。ピラミッドの建造自体が、生み出される金の価値を上回るから。
では何か。それは、科学的数値の追求だったのではないか。パイ(π)の概念を知り、それを自在に操っていた古代エジプト王の関心は何か。それは、πに代わる、あるいは、それ以上の神秘に満ちた科学的数値の探求だったのではないか。
大ピラミッドを建造できるほどの富と権力を持つ王が求めることと言えば、その答えは限られている。死後の世界か、あるいは、神秘数の探求。それを知ることは、世界を支配するほどの英知と永久の名誉を受ける。
大ピラミッドの建造目的をこのように考えると、ピラミッド内部の仕上げの精度の違いが納得できる。
7.大ピラミッドは本当にクフ王が造ったのか
大ピラミッドはクフ王が造ったという定説には、しっかりした根拠があります。
それは、重量拡散の間の石材に残されたカトルーシュ。それはクフ王を示すものと言われています。
ここで、少し説明を。
この「重量軽減の間」は5層からなり、それぞれに名前がつけられています。ついでに、石材に落書きも書かれています。
第1層 デビソンの間(Davidson Chamber)
第2層 ウェリントンの間(Wellington Chamber)
第3層 ネルソンの間(Nelson's Chamber)
第4層 アーバスノット夫人の間(Lady Arbuthnot's Chamber)
第5層 キャンベルの間(Campbell's Chamber)
重量軽減の間は、下の画像のような構造になっています。Wordで描いてみました。
下の写真は、最も上に位置する第5層キャンベルの間です。
キャンベルの名前がしっかり落書きされています。国民性と倫理観を疑うような落書きです。世界的な史跡に自分の名を残し、後世に恥をさらす見本でしょう。このような行為は非難されるべきで、書いた国の国民は責任をもってこれを消すのが責務でしょう。無神経なマスコミはどこもそのようなことは言いませんが。
そして、問題のカルトゥーシュはここにあります。
クフ王のカルトゥーシュを作ってみました。これは、Wordで描いたものをPhotoshopで加工しています。
一時は、後世の時代に書かれたものと騒がれましたが、文字の一部が石組みの内部に入っていることから、建設当時のものと認定されているようです。
この部屋は、1837年5月27日、イギリス軍大佐で探検家のハワード・ヴァイス(Richard William Howard Vyse)が発見しています。
王の玄室の直ぐ上にあるデビソンの間は、1765年にデビソンにより発見されています。ハワードは、デビソンの間から上に続く4つの間を次々と発見していきます。それも火薬を使うという手荒い方法で。
このカルトゥーシュが最上部のキャンベルの間だけで見つかったことから、発見当初から偽造説があったようです。その理由は、カルトゥーシュに誤字があること。
これを落書きと片づけるのは問題かも知れません。それは、単なるヒエログリフではなくカルトゥーシュだからです。カルトゥーシュをいたずらに描いたとは考えられません。
少し、横道にそれますが。
「天皇の印」を見たことがありますか。天皇の国事行為として押印するものです。
実は、管理人は見たことがあります。もちろん、本物です。天皇には名字がないので、天皇の印には何と書かれているか? 関心のある方は調べて持て下さい(笑)。かなり大きいので、少し驚きました。
さて、当時のエジプトの最高権力者であるクフ王の名前やその他の落書きではなく、カルトゥーシュが描かれていたことに着目する必要があります。それは、ピラミッド作業員が気まぐれに描けるようなものではなかったと思います。どこの世界でも、王の紋章は神聖なものであり、一介の労働者の落書きとして描くことができるようなものではなかったのではないでしょうか。
しかも、大ピラミッドの中で文字が見つかったのはここだけです。偽物説は排除されているので、ここで考えるべきは、なぜ、第5層キャンベルの間なのか。どうして、他では見つからないのか、ということでしょう。
そこで浮上するのが、やはり、偽造説です。完全な偽造ではなく、文字を楕円で囲んでカルトゥーシュにしたという説です。
ハワードは、発見の成果を同年6月に公表していますが、詳細なスケッチも公開しています。
キャンベルの間にはたくさんの文字が残されています。東西南北の壁全てに描かれています。
キャンベルの間のクフ王のカルトゥーシュとされるものは、正式にはクフ王のカルトゥーシュとは認められません。カルトゥーシュの中の"丸いもの"は、本来、「ふるい」として、円の中は線が描かれるのが正式ですが、キャンベルの間で見つかったものは違うのです。
ハワードは、サー(Sir)の称号を持つイギリスの名士ですが、Wikiで調べても、どんな人なのかはよく分からないです。常識的に考えて、第5層キャンベルの間だけでたくさんのヒエログリフが見つかるというのはとても不自然です。火薬で次々と部屋を見つけ、その都度公開していたので、偽装はできない。第5層で、ついに最上階に達し、何の発見もなかったハワードが取った行動とは・・・。火薬を使うという、あるまじき行動を正当化するには、より大きな「発見」という成果が必要だったのではないでしょうか。
しかし、キャンベルの間には、確かに「落書き」が残されていたのでしょう。しかし、「落書き」を発見しても「成果」にはなりません。世界的な衝撃ある成果とは、大ピラミッドの建造者の名前が記されている、ということ、それが、期待した成果だったのではないでしょうか。
この記事の主張は、ネコ師が土木的見地から独自に考えたもので、既存のいかなる文献も参照していません。
ネット上には、誤った記述がたくさんあります。その代表的なものは、「ハワードがダイナマイトで・・」という記述。ノーベルが(製品レベルで使える)ダイナマイトを発明したのは、1875年のこと。1837年のハワードの発見より39年も後のことです。そもそも、ダイナマイトの原料であるニトログリセリンが発見されたのは1846年です。ハワードの時代には、ダイナマイトどころか、ニトログリセリンでさえなかったのです。
次回は、スフィンクスと三大ピラミッドの謎に迫ります。
「スフィンクスの謎」
「スフィンクスの謎(その2)」
8.追記
2012年7月16日、TBSで「世界初公開! 謎の古代文字と太陽の船が語るピラミッド新たな真実 緊急解明SP」という番組がありました。
「これだけのネタがありながら、よくこれだけつまらない番組を作れるものだ」というひどいものでしたが、新たに発見された第2の太陽の船と、その覆いにつかわれた石材に書かれた文字には感動しました。
この発見により、新たにいろいろな解釈がでてくるように思います。
吉村先生は、文字は、労働者の落書きではなく「書記」が書いたものとしていますが、そうであるならば、あまりにも粗末。どうみても落書きにしか見えない。大ピラミッドの建造技術と第2の太陽の船の保管室の天井材に書かれた文字の質がアンバランスであることが気になります。
9.ピラミッド謎の解明関連記事
ピラミッド建造関連記事が結構たまったのでリストを作成しました。
『世界遺産:ギザの三大ピラミッド(Giza Necropolis その6)』(2012年6月2日)
『世界遺産:ギザの三大ピラミッド(Giza Necropolis その5)』(2012年5月20日)
『世界遺産:ギザの三大ピラミッド(Giza Necropolis その4)』(2012年5月14日)
『世界遺産:ギザの三大ピラミッド(Giza Necropolis その3)』(2012年5月11日)
『世界遺産:ギザの三大ピラミッド(Giza Necropolis その2)』(2012年5月8日)
『世界遺産:ギザの三大ピラミッド(Giza Necropolis その1)』(2012年5月6日)
『世界遺産 大ピラミッド建造の謎の解明に挑む【追記します】』(2010年8月29日)
『クフ王の玄室はピラミッドの地下か?』(2008年7月22日)
『世界遺産 大ピラミッド建造の謎の解明に挑む』(2008年5月1日)
うつぎれい と申します。
ここにもウーダンさんと同じようにピラミッドの建造法に独自のアイディアを披瀝してる方が居るのだとグーグル検索してて気付きました。
私も、というか私の方はウーダンさんの説を当時のNHKの紹介番組で見て初めて興味を持った部類なのですが、それで夢中になってしまったお陰で、遂には自分もがピラミッドの建造法の謎解きに目覚めてしまいました。
その後、色々あって6年も掛かってしまったのですが、最近 ( 2016.2.12. ) になって漸く、自分の考えを何とかまとめ上げ、以下のタイトルでインターネット上に何とか公開できました。
ウーダンさんほど斬新では無いにしても、力学上の解明の面からは、結構画期的な着眼だとは思っています。
「大ピラミッドを建造するいちばん簡単な方法」
2.5トンの巨石にクレードルを巻き付けて、4度勾配の内部斜路を楽々と転がし運び上げるのには、脚付きの錘としての「作業員」の体重そのものを最大限に活用すべく、巨石に繋いでから斜路を数十メートル登った先の天井に近い丸太棒の梁に一旦引っ掛けて垂直に垂らした4 ~ 5本の縄梯子に作業員がそれぞれ1人ずつ取り付いて、号令に合わせて一斉にゆっくりと登り始めるだけで、「斜面の法則」によって元々の7パーセントの重さでしかない巨石は、自然に転がって斜路を登ってゆく筈ですから、それを繰り返すだけで、総ての石をピラミッド上に運び上げることが可能だった…という説です。 ご一読いただければ幸いです。
URLは以下です。
(管理人:二重リンクになるのでこのリンクを削除しました。
)
コメントありがとうございます。リンク先の記事を拝見しました。つり合い錘に着目された記事で楽しく読ませていただきました。図があると分かりやすいのではないかと思いました。
現代なら成立するでしょうが、古代エジプトでは解決策がありません。
LEDの照明をリチュームイオンバッテリーで作業場を照らし、大型送風機で作業員が重労働で必要とされる酸素を供給できれば実現する可能性があります。
油脂を燃やして灯りとりして酸素を多量に消費し、平静状態で体重50kgの人が1分間に10リットル、20%の酸素を含んだ空気を必要とするのに、重労働でその3倍は必要とするはずで、何人がトンネル内で一緒に作業するのでしょうか?
酸欠、または一酸化炭素中毒で死者が出るのは必至です。
古代エジプト人が他に仕事がないとしても、中毒死や酸欠死する職場では働かないでしょう。
作業員はロボットではない事を視野に入れて考察する必要があります。
工事後の大回廊を使ったセレモニーを催す際にも観客の安全を確保する強制換気の機能もピラミッド封鎖前まで機能する様になっていたと思われます。
それも含めたメソッドでないといけません。
古代エジプト人技術者の卓越した技術方式でそれを実現し、更に省力化した方式で作業者への配慮もした素晴らしいメソッドを現存する足跡から確認でき感心しました。