2010年08月29日

世界遺産 大ピラミッド建造の謎の解明に挑む【追記します】

 
 2年以上前に書いた「世界遺産 大ピラミッド建造の謎の解明に挑む」という記事に追記しようと思ったのですが、長くなったので、新しい記事としてアップすることにしました。

 クフ王のピラミッド建設方法で新たな説が唱えられています。その一つが、Houdinという建築家が提案する「内部トンネル説」です。この説の特徴は、ピラミッドの上三分の二はピラミッド内部に造られたトンネルで石材を運んだというものです。今回は、この説の可能性を検証してみたいと思います。

 内部トンネル説については、『ドキュメント鑑賞☆自然信仰を取り戻せ!』様の記事を参考にさせて頂きました。この記事の完成度には正直驚きました。ありがとうございました。

 このトンネル説は、提案としては面白いのですが、理論が自己矛盾しています。直斜路ではなく、トンネルを造る理由で自己矛盾しています。そのほかにも、他の工法を否定する理由に挙げたことを、自分の工法では検証していないという、根本的な矛盾を呈しています。ただ、仮説としてはとても興味深いものです。それゆえ、なぜ、この仮説が成立しないのかを説明しながら、この手の「専門家」と称する人たちの言葉を信用してはいけない、ということを書きたいと思います。 

 まず、トンネル作業はとても大変な作業で、できることなら避けるべき工法です。明かり作業がどうしてもできない場合だけトンネル作業を行うと考えるのが常識です。

 直斜路を造れば1.6Kmで済むのに、内部トンネルを1.6Kmも造る理由が分かりません。トンネル作業はとても危険です。狭い上、換気も重要になります。多くの作業員が入るわけにはいかないと言うことです。トンネル工法は天候に左右されない、という発想は雨がある地域の話です。年間降水量が9mmしかないカイロでは、土木作業上心配する天候は砂嵐くらいです。

 大人数が閉鎖環境で作業をするには、換気はとても重要です。荒天の日も作業できるというトンネル説選択理由は説明になっていません。砂嵐の時にも、トンネルの内部で石の運搬が可能としていますが、それは不可能です。砂嵐の時には砂(呼吸器に入り込む微少な砂塵)が入り込まないよう入り口を閉めなければなりません。つまり換気ができないことになります。運搬作業はトンネルの内部だけでできるわけではなく、外部にも人が必要になります。砂嵐の時には、そもそも現場まで行くこともできません。

 炎天下の作業を避けることができる、というのもおかしな説明です。狭いトンネル内部に数百人の作業員が入って石の運搬作業をしたら、とても暑く息苦しいものになります。現在、クフ王のピラミッドへの観光客の入場は、換気の関係で100人に制限されています。

 表面の傾斜路は危険という説明は、全く矛盾しています。トンネル作業の方がはるかに危険です。石が滑り落ちたら逃げ場がありません。下方にいる作業員は全員死ぬことになります。

 表面に傾斜路を付けると測量できないとか、その重量でピラミッドがゆがむという説明も矛盾しています。トンネルの測量の方がはるかに難しいということです。測量の基本は、「見通す」ということですが、トンネル内部ではこれができないためです。傾斜路の重みでピラミッドがゆがむというのなら、反対側にカウンター盛り土をすればよいだけの話です。

 前回の記事で書いたように、無尽蔵にある「砂」を使うということを考えていない発想は、私には奇妙に思えます。数十キロも離れた所から石材を運んでくるのに、わずか数百メートルの運搬距離の延長を理由に直斜路方式を否定している理由が理解できません。

 トンネル方式の運搬は、カーブの作業が増え、さらに、運搬距離も増えます。メリットは一つもありません。

 最後に、この説の致命的なものをご紹介します。トンネルを埋める、あるいは塞ぐ方法がない、ということです。そのための石材をストックしておく場所がありません。塞ぐ作業をした作業員が抜け出す通路もありません。

 大回廊の入り口は、上部から落とされた石でふさがれています。しかし、建設の最後段階に、石材運搬用の長大なトンネルを塞ぐ石材を運搬する方法はありません。外部に仮設道路が無いわけですから、ピラミッドが全て完成した時でなければ、すなわち、キャップスートンを運搬、設置した後でなければトンネルを塞ぐことはできません。

 ピラミッドが完成してから、トンネルを利用して石材を運び上げ、上から順番に塞いでいったのでしょうか。大回廊のように、落とし込みで塞ぐ石をストックしておく場所はありません。そもそも量が全く違います。

 では、塞がなかったのでは? もしそうだとすると別の問題が発生することになります。それはトンネルの強度と材質の問題です。ピラミッドの内部は固い花崗岩、外部は石灰岩でできています。トンネルを塞がないということは、強度を持たせるために、トンネル全体を全て花崗岩で造ることになります。仮設のトンネルであったとしても天井の梁材は石灰岩ではなく花崗岩を使う必要があります。

石材を運ぶために必要なトンネルの幅は、少なくとも3メートル近いと思います。石をのせるソリは、長くできません。カーブを曲がるためです。ということは、幅を広げて石の荷重を分散させることになります。このため、石材の幅よりソリの幅はかなり広いものになります。

 固い花崗岩を使ってまで石材運搬用のトンネルを造るメリットがあるとはとても思えません。石の切り出しにかかる作業量が全く違います。

 幅3メートルのトンネル天井を支える梁材は、どうやって運んだのでしょうか。カーブはどうやって曲がったのでしょうか。このトンネル仮説は、もっともらしいのですが、実行は不可能です。

 しかしながら、この説で興味深かったのは、大回廊を運搬トンネルとして使ったというものです。これは本当でしょう。これほど運搬に適した施設はありません。しかし、大回廊の建設目的は、石の運搬用トンネルではなかったと言うこともはっきりしています。石材運搬用トンネルのために、あれだけ精巧な回廊を造る訳がありません。大回廊は別の目的で造られたものです。トンネル運搬説の根拠にはなりません。

 もう一つ興味深かった点は、トンネルが実際にあるということです。ただし、石材運搬のためではなく、別の目的のために造られたものだと思います。現在見つかっているトンネルは小さなものです。とても石材は運べません。

 では、このトンネルは何のために使われたのでしょうか。

 ナスジオの調査隊が昨年、トンネルを塞ぐ石に穴を開け、ファイバースコープで覗くというドキュメンタリーを放映していました。この番組を見ていて不思議だったのは、トンネルを塞ぐ石は、トンネルが完成した後にはめ込んで塞いだものではなく、周囲と一体化しているということでした。ということは、ピラミッド建設中に周りの壁と一緒に塞いだことになります。でもそれではトンネルの役割を果たしません。水平のトンネルのため、上部から石を落とし込んで密着させる方法は採れません。

 私の想像ですが、これらのトンネルは、ピラミッドの本来的な構造の一部として造られたのではないかと思います。吉村先生の唱えるように永遠の生命を得るための装置の一部だったのではないでしょうか。王の玄室から螺旋状にエネルギーがキャップストーンに上昇していくための通路として、象徴的な意味合いで造られたものではないでしょうか。人が通るわけではないので、部分的に建設段階から塞いでしまうのはこのためではないでしょうか。

 この説を採れば、このトンネルは、運搬用としては一度も使われていないことになります。なにしろ、造りながら途中を塞いでいくわけですから。

【ピラミッド関連の過去記事】



世界遺産 大ピラミッド建造の謎の解明に挑む



クフ王の玄室はピラミッドの地下か?



posted by ネコ師 at 13:41| Comment(0) | なぞの解明 | 更新情報をチェックする
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