レオナルド・ダ・ヴィンチの作品は、皆、ミステリアスな雰囲気がありますが、『岩窟の聖母』は、不思議な魅力に満ちた絵画だと思います。
『岩窟の聖母』は、2つの絵画が現存しています。一つはパリのルーブル美術館に、もう一つはロンドンのナショナルギャラリーに所蔵されています。
ルーブル美術館所蔵の『岩窟の聖母』
ナショナルギャラリー所蔵の『岩窟の聖母』
「この絵画は、ヘロデ大王の幼児虐殺を逃れてエジプトへの逃避行(マタイ2:13-15)の途中、岩窟に身を潜める聖母子と天使に守られた洗礼者ヨハネの姿という。この天使は大天使ウリエルであるという主張もある。」(Wikipedia)
このヘロデ王は、紀元前40年に当時ローマ帝国の支配下にあったユダヤの王になります。ヘロデ王はローマの元老院にとりいってユダヤの王という称号を手に入れますが、暴力で政治的支配権を握った人でした。自分の将来を脅かす者はたとえ我が子でも殺す人物でした。
そんな折、外国の博士が星を読みエルサレムにユダヤの王が誕生することを予言します。これを知ったヘロデ王は、お抱えの学者を動員して、「ユダヤの王」が誕生するのはベツレヘムだと知ります。どちらもすごい予言能力です。こんなことができるのなら戦争は連戦連勝でしょう。この「ユダヤの王」が誕生を言い当てたお抱えの学者が誰だったのかは分かりません。そちらの方がすごいことだと思います。
ヘロデ王は、ベツレヘムとその周辺の幼児を皆殺しにするため兵隊を派遣します。その時、母マリアとその夫のヨゼフは、天使の導きにより、イエズスを連れてエジプトに逃れます。この絵画は、その逃避行のワンシーンを描いたものと言われています。それにしても、ヨゼフの影が薄いです。
『岩窟の聖母』の依頼主は、フランシスコ会系の「聖母無原罪の御宿り信心会」で、ミラノにあるサン・フランチェスコ・ グランデ聖堂の祭壇画として1483年にダ・ヴィンチに作画を依頼しました。しかし、完成した絵が納得できない依頼主は、描き直しを命じ、結局、ダ・ビンチは、修正した別の絵を納品することになります。
この二つの絵は、とてもよく似ていて、簡単な修正のように見えます。
Wikipediaには「現存する2つの作品の差は加筆修正できる範囲で、最初から書き直さねばならないようにも見えない。」と書かれています。確かにそのように見えます。
でも、本当にそうでしょうか。下のGIFアニメをご覧下さい。
このGIFアニメは、Morphにより作っています。
2枚の絵がきれいに重なり、確かに若干の加筆でできると思いませんか。
でも、実際は違います。これは大嘘です。この二枚の絵は重なりません。このGIFアニメはワープ処理をして無理矢理重ねているから、このように見えるだけです。
絵の上半分は比較的きれいに重なるのですが、下半分は大きくずれます。
上半分はトレースして加筆し、下半分は完全に描き直したのではないかと思います。「若干の加筆」ではありません。
このGIFアニメを作る時、もっときれいに重なると思ったのですが、違いました。画像撮影の角度のせいでもありません。もし、撮影角度の問題なら、ワープではなく遠近法で処理できると思います。
ところで、「聖母無原罪の御宿り信心会」とは何でしょう。Wikipedia日本語版にしか載っていない名前です。新しい組織名をつけて翻訳するのなら原文を載せて欲しいです。日本語サイトでこの用語を使っているのは全てWikipediaからの引用です。Wikiの英語版で調べてみると「Confraternity of the Immaculate Conception」の邦訳のようです。